The Midnight Snac

 雑多な野菜を詰めてから酢に浸されたアンティチョーク、焼いたピーマンの中にはカスタードクリーム、塩とローズマリーで覆いオーブンに放り込まれた子羊肉、水を絞ったチーズに乗っかっているのは手作りらしい形の不揃いな桃ジャム。
 食べるという行為にそれほど関心を払わないスクアーロでもこれが舌と胃を存分に喜ばせてくれる物だと解る、深夜の酒場に不釣合いな田舎料理。
彼にしては珍しく自分からフォークを求めると、皿を運んできた美女がにっこりと笑って手渡してきた。よく見るとさっきまでステージで歌っていた顔。今夜二度目の軽い驚き。
 とても良い歌い手だったし、酒場の歌姫にしては珍しく服の胸元はきつく閉じられて豊満さが逆に示されているのも彼好みだ。なにより自分のような見るからに堅気でない男にも物怖じしないその目が気に入った。
 だというのに、その視線が飴色に磨きこまれたカウンターへ向いた瞬間に揺らいで潤んだ。
 そこには何杯目かの酒を選びに行った今夜の『デート相手』。

 軽い脱力感は御馴染の感触。くっそ、またかよ。
 レヴィと連れだって街へ飲みに行くと決まってこの手の視線にぶつかる。
 しかも何故だか一番の売れっ妓やスクアーロ好みの女に限って。
 彼女ら(偶に男も混ざってるのがまた理解できない)は、うっとりとレヴィを眺めた後、揃って熱っぽい溜息と共に言うのだ。
「かわいい」、と。
 レヴィはむろん取り合わない。商売女のお世辞だとでも思っているのだろう。スクアーロからすれば、そんな訳分からない世辞があってたまるかと思うのだが、本気と認めるのが悔しいので言わないでおく。
 しかし、世辞でないとすれば、一体何なのだろう。まさか世間では不細工な面のボンゴレ独立暗殺部隊幹部を掴まえて愛玩するのが流行っているのだろうか。謎だ。

 あれこれ考えながら目前の皿を突付いていると、当人が戻ってきた。
 レヴィにもカトラリーを手渡す女、さっきまで視線に込めていた熱を上手に隠して。
 なるほど、望まれてない好意を投掛けるほど愚かでもないらしい。
 畜生、やっぱ好みだ。なんでレヴィなんだよ。
 ささくれた気持ちを酒と食事で宥めていると、面白そうな案が浮かんだ。

「なぁ、もう一曲歌ってくれるかぁ」
 突然の指名に目を丸くした歌姫が柔らかく笑う。
 いいわよ、リクエストは? 低めの、甘くも優しくもない乾いた声で聞いてきたので、歌の名前を一つ挙げた。
 スクアーロが望んだのは、とても古い異国の恋歌だった。
「変わった曲が好きなのね」ステージに向かいながら歌姫が呟いたので、すかさずニヤリとわざとらしく笑って付け加えた。
 まあな。ウチのボスさんが、この歌好きなんだ。
 嘯いた途端、横で膨れ上がった殺気に頬が弛む。実のところあの男が好きなのかどうかなんて知ったこっちゃない。ただ、随分前に珍しく私室でレコードを掛けていたのを憶えていたから言ってみただけだ。
 予想通りレヴィは顔色を変えて睨んできた。ボスの嗜好を知っているスクアーロが妬ましいのか、彼のお気に入りをこんな場末で勝手に聴くことを不遜だと考えているのかもしれない。

 折角のデート中につまらない嫉妬に囚われてしまったのだ、これくらいの悪戯で気を晴らしてもいいだろう?
 スクアーロはくつくつと笑いながら、レヴィが寄越す鋭い視線と、穏やかなメロディーで始まった歌を楽しんだ。


レヴィはゴツイ外見のわりに行動がいちいち可愛いのでキュンキュンする。
彼は玄人のお姉さん(オカマ含め)に、ウケるタイプだと信じてます。



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