気乗りしない任務。気乗りしない面子。
横ではアホ鮫が耳障りな声で吼えながらソファを切り刻んでいる。ダッセ。
だからコイツと組むのは嫌なんだ。サシの勝負や殲滅戦は得意なくせに、こういう地味な仕事では絶対ヘマをする。
幹部3人がかりで追い詰めて折角捕らえたターゲットに舌を噛み切る隙を与えるなんて、下っ端ならこの場で首が飛んでもおかしくない凡ミス。
そもそも、研究成果を持ち出したボンゴレ兵器開発担当の処刑とデータ奪還なんて王子のやる仕事じゃないって。
レヴィはこめかみを引き攣らせてキリキリと吊りあがった目でスクアーロを睨むけど、んなことしてもこの死体が死ぬ前に隠したデータが出てくるわけないじゃん。バカじゃないの。
俺?アホバカコンビみたいな事するわけ無いじゃん。王子は王子でいるだけで偉いんだから。
やることなくてヒマだから、冷たくなってくターゲットを椅子から蹴り落としてそこに腰掛ける。
レヴィが尋問用に準備した薬剤やらの上に倒れこんだ元研究員は、足を乗せるのに丁度いい高さに落ち着いたのでその上で足を組む。ん、踏み心地は意外と悪くない。
死ぬ前に散々ボンゴレ―所属の開発部から上層部、しまいにはヴァリアーまで―を引っかきまわした、この上なくウザイ人間でも死んだら王子の足置きくらいにはなれるってことか。
なんだかちょっと楽しくなってきて口角が上がる。
俺の変化を目ざとく見つけ、相変わらず変なだけでちっとも怖くない顔でレヴィがこちらを向く。そんな顔してもキモイだけだっつーの。でもコレ、俺だからいいようなものの、子供が見ればひきつけ起こして心臓止まるんじゃない?
そう考えるとなんだかもっと笑えてきて、シシって笑い声まで出てきた。
情けない顔で溜息をついたレヴィの視線がふと俺の足元に落ちた。しばらく無表情で眺めていたレヴィは、ツカツカとやってきて、デカイ鈍重そうな図体を屈めて、足下に手を伸ばした。
形だけ見ると俺の足元に跪いたようにも見えなくなくて、可笑しいを通り越してちょっとだけ驚いた。
かまわず顎に手をかけて、ずるりと俺の足下から研究員を引っ張り出す。
文句を言うほど気に入った踏み台でもなかったので、何をするのか黙ってみていると、顎を持ち上げて逆さを向いた顔に自分の顔を近づけるレヴィ。キスでもするつもりなんだろうか。ルッスリーアのオカマ菌にでも感染したんだったら傑作なのに。
ネクロフォビアでオカマなレヴィを想像しかけただけで腹筋が捩れかけるのを感じたけど、詳しいイメージ想像は後回しにして続きを見守ることにした。
死体を覗き込んだままのムッツリが不意に「ナイフ」と呟いた。
椅子にもたれたまま放置してるとこっちを見る。 こっち見んな。顔近づけんな。
どうやらナイフを貸せってことらしいけど。しらんぷりしてると、また溜息をつかれる。
あー、あーあー。またやったコイツ。
それがムカつくっての。
もちろん、王子への礼儀としても間違ってるけど。どうせお前はボス以外は何でもどうでもいいんだろう。だから全部溜め息で済ますんだろう。
あー、マジでムカつくー。王族が寛容を与えるのは、まつろう者たちにだけでいいって、死んだばあやが言っていた。
視線を死体に戻したレヴィは、瞼をなぞっていた指を直角に突き立てた。
「げ」
声を上げたのは後ろのアホ鮫。
「なにしてやがんだ」
それには応えず、ズルズルめり込ませた指を引き抜いた先には、
「義眼、かぁ?」
ナイフ
またレヴィが独り言のように呟くが無視。マーモンみたいにレンタル料取ろうかな、まあ貸さないけどね。
非協力的な仕事仲間にもう一度溜息を付いて、レヴィは、ソレを
口に含んだ。
は?
ピアスに縁取られた唇が一度だけ動いて、大粒の葡萄を皮ごと噛み砕いたような音がした。
なに?フォビア通り越してカニバいっちゃう訳?
そのまま、ブッと吐き出されたものはやっぱり葡萄によく似ていた。
それと別に手のひらに吐き出したカプセル状のモノを一度透かし見たレヴィは俺のこともアホスクアーロの事も見ずに出口に向かっていた。
「データは奪還した。行くぞ」
ボスの下へ戻ること以外は眼中にないらしい背中は、骨を銜えて戻る犬みたいだった。
その姿は、城で飼っていたレトリバーが兄様だけにボールを咥えて行って、俺には決して懐かなかったことを思い出させた。
箱庭みたいな城、金色に光る兄様のティアラ、兄様を守るために俺のナイフの前に飛び出たあの犬の名前はなんだっけ? どうでもいい筈の下らない回想なのに、その記憶は俺の神経をチリチリと焼く。
あー、もー!王子がレヴィ見てから思い出に浸るなんてマジありえないし!
イラついた俺はスクアーロに向かってありったけの罵詈雑言とナイフを投げつけた。
ベルにはもっと口を極めて罵って欲しいのですが、スラングが思いつきませんでした。